
日本人が日常的にコーヒーを飲むようになったのは、海外の食文化を意欲的に取り入れるようになった明治時代に入ってからです。日本に初めてコーヒーが入ってきたのは、江戸時代。長崎の貿易港を通じてオランダよりもたらされました。
当時の食通であった大田南畝が、「焦げくさくして味ふるに堪ず」(『瓊浦又綴』)と評したように、初めはお茶文化に馴染みの深い日本人にとって、コーヒーは受け入れられませんでした。
しかし、現在は、世界第4位の消費国になるほど、コーヒーは日本で愛飲されています。こういった背景には、日本人が築いてきたコーヒー文化の影響があります。喫茶店が果たした役割はあちこちで述べられていますので、今回は少し違った視点から、日本とコーヒーに関連深いトピックをご紹介します。
インスタントコーヒーは日本人が発明?!
「いつでも好きな時に手軽に飲めるコーヒー」の開発は、多くの人が取り組んできたテーマでした。その成果の一つが、このインスタントコーヒーです。 インスタントコーヒーは、実は、1899年(明治32年)シカゴ在住の日本人科学者加藤サリトル博士が発明したといわれています。ただし、残念ながらまだこのときは、実用化には至らなかったようです。その後、本格的に実用化したのは、グアテマラ在住のベルギー人ジョージ・ワシントンでした。 実際に彼は、1906年アメリカで特許を取得。第一次世界大戦中には、アメリカからヨーロッパに赴く兵士に彼のコーヒーが支給されました。お世辞にもおいしいとはいえなかったようですが、戦地で手軽に温かいコーヒーが飲めるインスタントコーヒーは、重宝されたことでしょう。 ちなみに、現在提供されているインスタントコーヒーの製法は、大きく2つに分かれます。一つは、濃縮した液体コーヒーを高温の熱風で乾燥させるスプレードライ製法。もう一つは、冷凍したコーヒーを真空状態にして、低温で乾燥させるフリーズドライ製法です。こちらの方がコストは高くなりますが、高い熱を加えないため香りが保持され、レギュラーコーヒーに近い風味を楽しめます。
缶コーヒーの普及
同じく「手軽に飲めるコーヒー」として挙げられるのは、缶コーヒーでしょう。缶コーヒーは、最初の発明者が誰かについては諸説ありますが、本格的に実用化に成功したのが、日本人というのは間違いありません。日本初の缶コーヒーは、島根県ヨシタケコーヒーの三浦義武が1965年に開発した「ミラコーヒー」だったといわれています。 ただし、これは3年ほどでなくなってしまいます。その後、全国的に普及したのが1969年UCCが独自にミルク入り缶コーヒーを開発してからのことでした。では、なぜ日本で缶コーヒーがこれほどまでに普及したのでしょうか?それは、自動販売機の存在が大きいと思います。屋外においても、お金や商品を奪われない国…こういった日本の治安の良さも後押しし、自動販売機がどんどん増え、缶コーヒーの販売環境が整っていきました。日本には、冷蔵・保温の両方の機能がついた自動販売機が、至る所にあります。 それもそれなりのお値段で、それなりのコーヒーを飲むことができます。改めて考えると、これはすごく贅沢なことかもしれません。まさに「缶コーヒーは日本育ち」といえるでしょう。
日本人が考案したブルーマウンテン
高価なコーヒーとして有名なブルーマウンテン。生産量の約90%は日本に輸入されていて、ヨーロッパではほとんど飲まれていないということをご存知でしたか? ブルーマウンテンは、ジャマイカ産コーヒーですが、元々はイギリスの統治時代にプランテーションが広がり、そこでコーヒーの栽培が盛んになったことが始まりです。しかし、これが20世紀の初めには衰退してしまいます。多雨による土壌の流出や、労働力の不足などによって、生産量も品質も低下したのが要因のようです。 そこで産業公社が設立され、コーヒーの復興がはじまりました。そこに手を貸したのが日本でした。日本は、1973年に官民あげてのジャマイカ支援を行い、「ジャマイカ・ブルーマウンテンコーヒー開発事業」を推進しました。こういった背景から日本人によって「ブルーマウンテン」というブランドが作り上げられたのです。 はじめこそ受け入れられなかったコーヒーですが、日本人が作ってきたコーヒー文化も、確実にあります。今後も、日本初のコーヒー文化が生まれていったらおもしろいですね。