【NPO法人パルシック インタビュー】東ティモールで行われているフェアトレードの実態

By Tailored cafe online編集部

フェアトレードとは何か? 多くの人はフェアトレードという言葉自体は 聞いたことがあるかと思います。 しかし、その内容を本当に
理解している人は少なくて 貿易を公平にしようとしている
などふわっとした 理解しか持っていない人が多い印象です。 今回はフェアトレードを行っているNPO団体の パルシックさんにお邪魔して
フェアトレードのことを聞いてきました。
INTERVIEW BY:Keiko Roberts / Yuki Nakamura
WRITER BY:Tetsutaro Inoue

フェアトレードとは何か

井上:はじめまして。僕はコーヒーが好きでよくカフェにも行くのですが、たまに「このコーヒーはフェアトレードのコーヒー豆を使用しています」みたいなフレーズを見ることがあります。なんとなくフェアトレードについて知ってはいるのですが正直フェアトレードとは何なのかよく分かっていません

コーヒー豆を生産している途上国と公平に貿易をして、途上国の人の生活を支えているのかなあとボヤボヤっとしたイメージはあるのですが、詳細は何も知らないです。おそらく多くの人が僕と同じような認識だと思うのですが、今回はフェアトレードのことをいろいろと教えてください。

ロバーツ:よろしくお願いします。確かにフェアトレードについてはそんな認識を持っている人が多いかと思います。でも、じゃあ実際にフェアトレードとは何かひとことで言おうとしても、やっぱり「公平な貿易」をすることになるんです(笑) ”フェアトレードとは既に存在する社会の問題をビジネスの力で解決すること”

ただ、私個人的にはフェアトレードとは既に存在する社会の問題をビジネスの力で解決することなのではないかと思っています。

井上:既に存在する社会の問題を解決するということは、そもそも既にコーヒー豆の輸入については社会的な問題があるってことなんですか?

ロバーツ:はい、そうです。コーヒー豆の輸入について言うと、やっぱり消費者側である日本やアメリカの方が生産者側であるコーヒー生産国よりも立場が上なんですよね。だからコーヒー豆の生産国からコーヒー豆を購入する時に安い値段で買い叩かれることがあって、そうなるとコーヒー生産者は生活をするのに十分な収入得ることができません。

コーヒー豆の買い取り価格はニューヨーク証券取引所などの相場で決まるので、当然安くなる時もあれば高くなる時もあります。フェアトレードではたとえコーヒー豆の相場が下落してコーヒー豆の価値が下がったとしても、最低の買い取り値段を保証します。

そのためにコーヒー農家はたとえコーヒー豆の相場が下落しても最低で買い取ってくれる値段が決まっているので、安心して事業に集中することができます。

井上:なるほど。コーヒー豆がそもそも金融市場の相場で値段が決まっていて、コーヒー農家の収入が不安定化する中で最低の買い取り価格を保証することでコーヒー農家を保証するんですね。それは確かに社会的に大きな問題を解決していますね。

でも、それだけ聞くとコーヒー農家にとっていいところ尽くしで世界中の全てのコーヒー農家がフェアトレードに加盟して、世界中の全てのコーヒー豆がフェアトレードになる気もするのですが(笑) 東ティモールのコーヒー農家

ロバーツ:でも、実際はそう簡単にもいかないんです。というのは、フェアトレードの団体はフェアトレードをするにあたって、コーヒー生産国からコーヒー豆を直接仕入れます。なので大量のコーヒー豆の在庫を抱えることになるんです。

フェアトレードに加盟していただけるコーヒー農家が増えれば、その分仕入れるコーヒー豆も増えます。そうするとフェアトレード団体が抱えるコーヒー豆の在庫量も増えていき、それを売り切らなければなりません。

現在パルシックでは年間で70トンくらいのコーヒー豆をフェアトレードで輸入しており、それをコーヒー卸業者や外食チェーンにまとめて販売したり、スーパーにバラ売りなどを依頼しています。これらの販売先は営業して開拓していくのですが、フェアトレードに加盟するコーヒー農家が増えるとコーヒー豆の在庫が増えすぎて、これらの方々に販売仕切れなくなってパンクしてしまいます。

井上:そうなんですね。正直フェアトレードのNPO団体がそこまでやっているとは思っていませんでした!てっきりコーヒー豆の仕入れ価格を指導したり、フェアトレードの認証をしたりするだけなのかと思っていましたが、パルシックさんでは、実際にコーヒー農家からコーヒー豆を仕入れるところまで自らリスクをとって行い、販売先の開拓まで行っているんですね。



コーヒー生産国にて精製方法改善のインフラ整備も行う

中村:フェアトレードのNPOが行っている取り組みは他にもいろいろあります。その中のひとつがコーヒー豆の品質向上です。コーヒー豆って結局は嗜好品なので、当たり前ですがそもそも美味しいことが必要なんです。

味はあまり美味しくないしちょっと高いけど、フェアトレードのコーヒー豆だから買ってくださいというのは違っていると思っていて、美味しくて何度も飲みたくなるコーヒー豆を作る必要があります。そのためにコーヒー豆の精製について改善を行っており、具体的にはコーヒーチェリーからパーチメントコーヒーにするためのインフラ設備を整備しています

井上:そんなところまで支援しているんですね! ”コーヒーチェリーからパーチメントコーヒーにするためのインフラ設備を整備したり、コーヒーノキの栽培に関する技術的な指導も行ったりする”

中村:あとは「カットバック」の促進も行っています。コーヒー豆はもともとコーヒーノキという植物から採れるのですが、植物なので永遠に育ち続けるわけではなくて盛んにコーヒーチェリーが採れるのは20年くらいが目安と言われています。

20年たったらカットバックといって、コーヒーノキをいったん根元付近で切って、また大きく成長するまで待つのですが、コーヒー生産国ではどうしても短期的な収穫量を意識することが多く、なかなかカットバックを行わず中には50年以上同じコーヒーノキを育て続けているということもあります。

そうするとコーヒーノキの生産性も長期的にみると落ちてしまうので、そういったコーヒーノキの栽培に関する技術的な指導も行っています コーヒーチェリーからパーチメントコーヒーへの精製も行っている

井上:フェアトレードではコーヒー豆買い取りにおける最低価格を保証するだけのところという認識を個人的には持っていたのですが、まさかここまでコーヒー生産国のことを考えて支援しているとは思っていませんでした。

ロバーツ:コーヒー豆の最低買い取り価格保証ですが、コーヒー豆の相場が好調ということもあって、実は最近10年間以上はコーヒー豆の相場の値段の方が、最低買い取り保証の値段よりも高い水準で推移しています。

そのためにコーヒー豆の最低価格保証もいざという時のために当然重要なのですが、平常時においてはコーヒー生産国のコーヒー豆の品質を向上させる取り組みの方が重要なのかもしれません。

もともとは紛争問題解決のために東ティモールに行っていた

井上:パルシックさんは東ティモールでのコーヒー豆のフェアトレード以外にも、シリア難民問題や東日本大震災後の石巻市での活動などいろんなことをされているようですが、そもそもなぜフェアトレードを始めようと思ったのですか?

ロバーツ:もともと東ティモールに行ったのはフェアトレードとは別の目的でした。東ティモールという国は2002年にインドネシアから独立したばかりなのですが、独立前後の紛争で実に1/6もの国民が亡くなってしまいました。 ”どうすれば東ティモールという国は今後発展してくのだろうかと考えた際にコーヒーがキーになる”

その際に医療行為を行って国の復旧に貢献させて頂くために東ティモールに行ったのが最初でした。その時にどうすれば東ティモールという国は今後発展してくのだろうかと考えた際に”コーヒー”がキーになることに気がつきました。

東ティモールはコーヒーの生産で経済が成り立っており国民のほとんどがコーヒー事業に携わっております。そのためにコーヒーなしにこの国発展はないと考えて東ティモールでフェアトレード事業を開始しました。

井上:実際に独立したばかりの東ティモールに行って、現地の状況を自分たちの目の当たりにしたからこそ、フェアトレードを通してコーヒー産業を支えることの重要性を認識し、先ほどおっしゃっていたように、現地でコーヒーノキの栽培を指導したり、コーヒーを精製するためのインフラを整備したりしたんですね。

パルシックさんが支援している東ティモール産コーヒー豆の裏にこのようなストーリーがあったとは思いもしませんでした。でも、いきなり日本人が現地に行って「私たちはあなたたちを助けに来ました。コーヒーの栽培を支援します。」なんて言っても信頼されないんじゃないんですか?言語の問題もありそうですし。 東ティモールの子供たち

ロバーツ:東ティモールではテトゥン語という言葉が話されています。私たちの中にはテトゥン語を話せる人もいますが、日本にテトゥン語を話せる人はほとんどいないと思います(笑)

東ティモールでフェアトレードの活動を行い始めた際には現地のNGO団体と提携して地道に信頼を得ていきます。フェアトレードではコーヒー農家同士で組合を作っていくのですが、少しずつ加盟するコーヒー農家を増やしていきました。

始めはなんとか25世帯のコーヒー農家に組合に入って頂き、今では500世帯くらいのコーヒー農家がパルシックの組合に加盟しています。規模としては東ティモールにあるひとつの村の半分くらいのコーヒー農家です。

井上:すごいですね!これからもどんどん加盟者を増やしていく予定ですか?

ロバーツ:実は今はコーヒー豆の販売の部分がボトルネックとなっており、これ以上加盟してもらうコーヒー農家を増やしても日本などでコーヒー豆を全て販売できていないのでこれ以上の加盟は一時止めています。

当たり前ですがコーヒー豆はとりあえず作ればいいという訳ではなくて、作った後にそれを販売する必要もあるので、日本のスーパーなどに営業をかけて東ティモール産のフェアトレードコーヒー豆を売ってもらったりしています。

井上:なるほど。フェアトレードはコーヒー生産国の現地だけで活動するという訳ではなくて、コーヒー消費国の日本でも裏では活動を積極的に行っているのですね。ちなみにお二人はそもそも何でフェアトレード活動を行っているパルシックさんで働こうと思ったんですか? ハンドピックをしている様子

中村:私は東南アジアの人たちが好きだからです。人柄が楽しそうで生き生きとしている人が多くて、何か惹かれるものがありました。それでもともと個人でフェアトレードを行っていたのですが、縁あってパルシックで働き始めました。

ロバーツ:私はもともとコーヒーが好きだったのもあるのですが、イギリスで暮らしていた時にフェアトレードの存在を知りました。イギリスはフェアトレードに積極的な国ということもあり、昔からフェアトレードやオーガニックの商品はスーパーでよく売られていました。

でも、当時はイギリスではフェアトレードの商品は通常の1.2倍くらいの値段で売られていたのですが、日本のフェアトレードの商品は通常の2倍くらいの値段でした。それにとても驚いて、日本でももっと適切にフェアトレードを取り扱っていきたいと思いパルシックで働き始めました。



東ティモール産コーヒー豆の味

井上:東ティモール産フェアトレードのコーヒーはどんな味がするんですか?

ロバーツ:東ティモールのコーヒーは、アラビカ種とロブスタ種が合わさった「ハイブリッドティモール」というコーヒーと「ティピカ」というコーヒーがあります。ハイブリッドティモールはボディがしっかりとしていて苦味と優しい甘みが特徴的であり、ティピカは軽めな酸味が特徴的です。

一般的に世界中のコーヒー農園で過去の一時期に農薬がたくさん使われていた時期があったのですが、その時期の東ティモールは紛争でコーヒー栽培どころではなかったので、逆にコーヒー農園で農薬が使われませんでした。

そのために純粋なるオーガニックコーヒーを栽培することができ、東ティモールのことを過去にもほとんど農薬が使われてこなかったことから”コーヒーの最後の楽園”と呼ぶ人もいるくらいです(笑) ”東ティモールのことを過去にもほとんど農薬が使われてこなかった”

井上:実際とても美味しいですね!ちなみにコーヒー農家の人ってどんな人が多いんですか?コーヒーだけをずっと生産しているんですか?

ロバーツ:コーヒーを生産している人は30代〜50代くらいの男性が多い印象です。ただコーヒーチェリーの収穫などで忙しい7月〜9月には子供も含めて家族総出でコーヒーチェリーを収穫します。

コーヒー農家は収入のほとんどがコーヒー豆の生産ではあるのですが、サイドビジネス的に他の農作物を作るケースもよくあります。

コーヒー農家の家計という観点から見ると、コーヒーは収入が入る時期に偏りがあります。コーヒーチェリーを収穫した後にはそれを販売するのでお金が一気に入ってくるのですが、それが終わるとコーヒーからの収入は1年くらいはまともに入りません。 コーヒーチェリーを収穫している様子

国民性もあるのですが、東ティモールでは収入が一気に入るとそれを貯蓄して計画的に使ってくというコーヒー農家はあまりなくて、収入が一気に入るとそれを一気に使う人が結構多いんですよね。

井上:日本でもたまにそういう人いますよね(笑)

ロバーツ:だからパルシックではハーブティーの栽培を最近では促進しています。コーヒーが収穫時期に偏りがあるのに対して、ハーブティーは一年中収穫することができます。栽培条件についてもハーブティーはコーヒーと併用して栽培できるので利便性が高いです。

ソーシャルプレミアムとういフェアトレードの制度

ロバーツ:フェアトレードにはソーシャルプレミアムという制度もあります。これはフェアトレードのコーヒー豆を購入すると1kgあたり数十セントが蓄積されていき、そのお金を使って地域社会に還元していきます。

1kgあたり数十セントと聞くと、大したことなさそうにも聞こえますが、年間で70トンを購入しているので結構な金額になります。

どのようにソーシャルプレミアムのお金を使うかは総会で決めるのですが、学校や病院などのインフラ設備を作ったり、水道管を村にひいてきたり、若者何人かを都会に送って農業の勉強をしてきてもらったりしています。

井上:なるほど。フェアトレードとひとことに言っても、その裏ではかなりいろんな活動があるんですね。フェアトレード業界やパルシックさんの中で何か現状の問題点などありますか? ”私たちの抱える問題はフェアトレードで仕入れたコーヒー豆をいかにして日本で販売するかというところ”

ロバーツ:私たちの抱える問題はフェアトレードで仕入れたコーヒー豆をいかにして日本で販売するかというところにあります。NPO法人全般で言えるのかもしれませんが、なかなか国内での販売には手を焼いています。

そのためにもコーヒー豆の味をいかに美味しくするかが大切だと思っていて、現地で生産・加工方法の改善に今後も取り組んでいくつもりです。



エピローグ

コーヒーのフェアトレードを行っているNPO団体がまさかここまでコーヒー農家を支えるために活動を行っているとは思いもしませんでした。

ちまたではフェアトレードのことを本やネット程度でしか見聞きしたことがなくて、あまり深い知識もないにも関わらず批判的な考えを持つ人も一部にはいます。

私も今まではあまりフェアトレードのことを理解していなかったのですが、今回のインタビューを通して、いかにフェアトレード団体の存在意義があるのかを認識させられました。

そしてあくまで”フェアトレードだから”という理由ではなくて、”美味しいコーヒーだから”という理由で選ばれたいという発言が個人的にはとても印象的でした。

パルシックさんはネットでもコーヒー豆の販売を行っておりますので、興味がある方はぜひ一度試して見てください。

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